レバーハンドルについて

 

 

 

 

 

私は多くの建築を作ってきた。その全てはフルオーダーの手作りだ。
しかし、常に私を悩ますものがあった。それは均質で無表情なレディメイドの金物だった。
そのなかでもレバーハンドルは、私たちが最も手に触れる機会の多い金物だ。
私は、それから作り始めることにした。 
もっと人の手の温もりを感じられるもの、自然の素材の良さを感じられるもの、
使い込むほどに変化し愛着の湧くもの、そんな思いで、このレバーハンドルを作り始めた。

 

 

 

 


 

素材

 

 

 

 

今、私たちの生活の中で自然の素材を肌で感じられる機会はほとんどなくなった。
多くはコーティングされていたり、プラスチックなどの化学製品である。
私は五感で自然を感じられる建築を作ってきた。
金物はそれを実現する手段のひとつである。
だから、いつも大切にしているのは、その素材らしさとリアリティーである。

 

 

 

 

 

鉄 柿渋焼き、亜麻仁油仕上げ

加工前の鉄材は黒皮という酸化皮膜で覆われている。それは高熱で溶かされた鉄が冷えて固まる時に空気中の酸素と結合して、自身を酸化から守るための皮膜である。鉄は加工中に所々この皮膜が削られてしまう。それを補うために柿渋を塗り、バーナーで焼き締めることで表面にタンニン鉄が形成し、防錆効果と共に黒皮とは違う独特の深みのある鉄肌に仕上がる。そして、その上に亜麻仁油を塗り艶を出す。

 

 

真鍮 常温黒染剤によるエイジング処理

真鍮は何も施さなければ、自然と酸化し、金色から徐々に褐色へと変化する。その過程を常温黒染剤によって自在にコントロールできる。しかし、その酸化を止めることもあえてしない。真鍮はその経年変化を楽しむ素材だからである。販売時はプレーン、ナチュラル、ブラウンと3種類の仕上げを用意しているが、どれひとつとして全く同じ色調には仕上げることはできない。それが自然素材ならではの良さである。

 

 

 

職人

  

 

 

 

 

 

 

 

不誠実な仕事を許さない。
なぜならば、金物が発する空気感は職人の誠実さから生まれるからである。

 

 

 

 

 

 


鉄の職人である隈本氏は40年以上のキャリアを持つベテランの職人だ。 彼は精密部品から工作機械、建築まで作る鉄のスペシャリストだ。 しかし、彼の仕事の真価は、目に見えない部分にある。 最小限の部材で最大の性能を引き出す卓越した彼の能力無くしては、 私の金物は生まれない。